月例会発表概要

みんなで考える授受動詞の理解と教え方

香港中文大学
井上 ゆみ


授受本動詞「あげる」「くれる」「もらう」の3項目の中で中国人教師の皆さんはどれが一番難しいですか?日本人教師の方々は中国人学習者にとって難しいものはどれだと思いますか?皆さん、「くれる」だと答えるだろうと思います。質問1:では、なぜ「くれる」が難しいんでしょう。次の「もらう」や「あげる」を使った表現が間違いだと判断できますか?質問2:どうして日本語では下の表現はできないんでしょうか。

 (1)*陳さんは私にプレゼントをもらいました。

 (2)*アニルさんは私にテレビをあげました。

 (3)*母に私の編んだ手袋をもらいました。

(1、2)は「私に」だから、「くれるじゃなくてはないらない」ですか?じゃ、学習者にも「私に」があったら「くれる」を使うと教えるのでしょうか。確かにそれも1つの教え方ですが、それで学習者が習得してくれるなら、「くれる」はぜんぜん難しくなくなるはずですね。(3)は主語「私」が省略された文ですが、「もらう」を使うと実際の物の移動とは逆になってしまうので、文意が伝わらなくなった文です。

日本語の授受動詞「あげる」「もらう」「くれる」は方向性(話者から物が遠ざかるのか近づくのか)のほかに視点制約(受身表現や移動表現などと同じように、同じ出来事を描写する場合でも、話者がどこにカメラを置いて描写しているのか)があると言われています。そして、この他言語では見られない視点制約+方向性のコンビネーションが日本語学習者の授受表現理解に影響を与えていることがわかっています。

ここでは、1)授受本動詞の正しい理解を目的とし、2)授受動詞習得研究を紹介するとともに、3)みんなで一緒に教え方を考えましょう。勉強会にいらっしゃる方は、自分がどういうふうに教えてるのか授業を少し紹介していただければと思います。みんなで教え方についていろいろ考えていきましょう。